「その日から俺は凛のことが気になって仕方なかった。
他のヤツらはみんな凛に冷たくされるとすぐに離れていったけど、俺だけは違った。
とにかく凛のことをもっと知りたい、もっと近い存在になりたい、そう思って何度突き放されても絶対諦めなかった。
そんな日がしばらく続いて、ある日突然凛が俺に言ったんだ『アンタ、ほんと変わってるわね』って……」
その言葉を境にようやく凛がこっちを向いてくれたんだ、と桐生君は懐かしそうに呟いた。
「べつに付き合ってるわけじゃなかったけど、俺は凛のそばにいられるだけでよかった。
それだけで毎日が信じられないくらい幸せだったんだ……」
桐生君の言葉から、工藤さんのことを本当に好きだったという想いが痛いくらいに伝わってくる。
「けど……それから少しして凛の母親が死んだんだ。あまり体が強くなかったのに、仕事を無理し過ぎたせいであっけなく逝っちまった……。
父親もあんなだからもちろん凛を育てられるわけなくて……。
凛は……北海道に住むじいさんとばあさんのとこで世話になることになったんだ」
「そんな……」
次から次へと工藤さんに訪れる不幸。
あんな小さな体でそれを受け止めるのは、どれほど大変だっただろう……?
「それで……凛と別れる時、俺、アイツに言ったんだ。『好きだ』って……。
そしたら凛も俺のこと好きだって言ってくれた。でも……」
そこまで言うと桐生君は、プツリと口をつぐんでしまった。
彼の中で癒えることのない辛い記憶が、フラッシュバックのように蘇っているのかもしれない。

