「アイツんち、ちょっと家庭環境が複雑でさ……。父親が飲んだくれで仕事もせず暴力も酷かったらしくて。
母親は家計を守るために水商売の仕事をして必死に頑張ってたらしいんだけど、そのことがどっかから漏れて、凛のことを妬んでた女達がからかったことがあったんだ。
『親がろくでなしだからアンタもろくでなしなのね』って」
酷い……。
いくら中学生とはいえ、言っていいことと悪いことがある。
その時の工藤さんの気持ちを思うと、私でさえツキンと胸が痛んだ。
「さすがに俺もそれは言い過ぎだろって思って止めようとしたんだけど、アイツ……凛は、真っ直ぐそいつらを見据えて言い放ったんだ『母さんを悪く言うヤツは許さない』って」
「……っ」
工藤さんの強さにおもわず頭が下がる。
きっと私なら、悔しくても何も言い返せないだろう。
「その後すぐ凛は教室出てっちまって……。でも俺、なんとなく気になって後を追いかけたんだ。
そしたら……凛が塾の裏で声押し殺しながら泣いてたんだ……大粒の涙を目からいっぱいこぼして」
そう言うと桐生君は、私の髪をスッとひと撫でした。
「その時わかったんだ。あぁ、この子は本当はすごく弱くて不器用だから、今までわざと突っ張って自分自身を守ってたんだなって……」

