「はぁ……っ……はっ」
しばらくして桐生君の唇が私から離れると、息をするのも忘れキスに酔いしれていたことに気が付いた。
呼吸を整えようと肩で息をしていると、桐生君はその肩をグイッと引き寄せ私を胸にギュッと抱きしめた。
私の頭に顔を埋め、愛でるように繰り返し髪を撫で下ろす。
そのあまりの心地よさに瞳を閉じてうっとりしていると、突然桐生君の声が頭の芯に響いた。
「ごめん……」
「っ!?」
僅かに掠れた桐生君の声に、驚いて顔を上げようとする。
しかしそれを制止するように更に私の髪に頬をすり寄せると、抱きしめる腕に力をこめてきた。
「あ……の……、桐生……君?」
「……そのままで聞いて……」
「うん……」
なんだか辛そうな桐生君の声に、胸がキシリと音を立てる。
堪らず桐生君の胸のシャツをキュッと掴むと、再び辛そうな声が耳の奥に届いた。
「凛のこと……」
「っ!!」
―― “凛”
桐生君の口から工藤さんの名前が出た途端、私の体がビクンと小さく跳ねる。
夢の中のように幸せだった時間から、一気に現実へと引き戻される……そんな感じだった。
怖いけど……ちゃんと聞かなくちゃ……っ。
どんな事実を告げられても怖がらずに受けとめようと思う反面、ドクン……ドクン……と胸の鼓動が不安に震え、気を抜けば今すぐにでもこの場から逃げ出してしまいそうだった。

