キスから始まる方程式



「まぁその話はいいからさっ。ところで七瀬、なんで俺からそんなに離れて座ってんだ?」

「えっ? あっ……これは……っ」



指摘されたくないところを見事にツッコまれ、おもわず言葉につまる。


けれど



『桐生君に触れて、また嫌がられるのが怖いから』



などと本当のことを言う勇気など、もちろん私にあるはずがない。



「えっと、その……なんてゆーか……」



どうしよう……と更に顔を真っ赤にして口ごもる私に、ふっと桐生君が口もとを綻ばせて呟いた。




「おいで」

「え……?」



桐生君の目が優しく細められ、長い腕がスッと伸びてくる。



桐生……君……?



桐生君の温かい手に引かれるままに立ち上がると、そのまま腰を抱き寄せられ、座っていた桐生君にすっぽり包まれるようにして私も座らされた。



きき、桐生君近い! 近過ぎっ!!



久しぶりの桐生君の温もりに、更に鼓動が激しさを増す。


けれど嬉しさの反面戸惑いも大きく、どうしたらよいかわからずに身をキュッと縮めていると、不意に桐生君の優しい声が耳元から聞こえてきた。