10日後・春休み ――



「お母さ~ん! 髪、ピンで留めて~っ」

「あ~、ハイハイ」

「えっと、あとはもう一回部屋確認して……」



3学期の終業式も無事に終わり、春休みに突入して早数日。


いよいよ今日は、桐生君が我が家へ遊びに来る日である。



「ちょっと七瀬、少しは落ち着きなさいって」

「なっ! べつに焦ってなんか……っ」

「いっくら愛しの桐生君が来るからって、このままじゃ七瀬、慌てて階段から落ちてケガでもしそう」

「そ、そんなことないもん」



大嘘である。本当はお母さんの指摘どおり、朝からものすごく緊張している私。


何をしていてもそわそわ落ち着かなくて、周りからしてみればさぞや危なっかしく見えていることだろう。



「はい、出来たっと!」

「ありがとっお母さん。ねぇ、変なところない? 編み込んだ髪もちゃんとなってる?服もこれで大丈夫かなぁ」

「あ~はいはい、大丈夫大丈夫。七瀬は今日もとっても可愛いですよ~」

「あ~っ! 適当に言ってるでしょ」

「アハハ……。だって七瀬、朝からその台詞もう3回目じゃない」

「っ! 念のため確認したかったの!」

「はいはい、そうですかっと……」



お母さんの容赦ないツッコミに、思わず赤面する私。



「桐生君が来るまで二階にいるからっ」



恥ずかしさに耐え切れなくなった私は、真っ赤な顔を隠すようにそそくさと二階の自分の部屋へと逃げ込んだ。