「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」



自分の呼吸の音に混じって、背後から瀬戸君の怒鳴り声が聞こえてくる。


そんな怒鳴り声も先刻のキスも、全てを投げ捨てるように宛てもなくひたすら走り続ける私。



いったいどれだけ走ったのだろう……?



ふと気が付くと、いつの間にか見慣れた家の前で立ち尽くしていた。



ゴシゴシとコートの袖で、汚れを落とすかのように何度も何度もキスされた唇を拭う。


しかしどれほど繰り返し拭ってみても、一向に胸の奥の嫌悪感は消えてはくれなかった。



「寒い……」



仕方なく諦めた私は、寒さで真っ赤になった自分の両手を温めるようにハァッと息を吹きかける。


まだ二月に入ったばかりということもあり、暗闇の中に驚くほど真っ白な息が浮かんで見えた。