「ふふっ、可愛い……」



だがそれと同時に沸いてくるのは、昔は感じなかった切ない気持ち。


指輪を見ているだけで、小指だけでなく胸もギュッと締め付けられるような感覚に囚われる。


もう二度と叶うことがないだろう幼き日の約束に、心が痛むのだった。



「翔はもう約束とか指輪のことなんて忘れちゃっただろうなぁ……。キスまでしたのにね……」



桐生君には黙っていたが、実は指輪を貰った時、結婚式の真似事をしてご丁寧にキスまでしていたのだ。


もちろんこれが私にとっての記念すべきファーストキス。


今でも忘れられない、とても大切な思い出だ。


とは言っても、おそらくこのことも翔はキレイさっぱり忘れてしまっているだろうけれど……。



「覚えてるわけないか……。あんな昔のことだし、それにきっと翔の頭の中は南條さんのことでいっぱいだもんね……」



南條さんのことを思い出しただけで、不意に苦いものがこみ上げてくる。


人柄はどうあれ『翔の彼女』というだけで、どうしても素直に受け入れることができなかった。