母は父を“ケンちゃん”と呼ぶ。

父は母を“ゆみちゃん”と。



幼なじみの二人は、結婚しても昔からの呼び名を崩さない。


そんな両親を見て、羨ましいと感じる。



私も…

夕凪とそんな風になれたらいいのに…





バスは市街地に入った。


海は見えなくなり、

代わりに背の高いマンションや、密集した住宅、大型スーパーマーケットが車窓を流れた。



私の家は、海しかない田舎町。


バスで1時間走っただけで、別世界な都会が広がり、変な気分だ。



入学する南陵第一高等学校まで、あと二駅。


父とふざける気分も薄れ、徐々に緊張してきた。



うちの中学からその高校に進学したのは、私と夕凪の二人だけ。


新しい環境で、新しい出会いが待っている。


全てが新鮮で、期待と不安が入り混じる。