いつかは夕凪と、恋人同士になりたいと願っていた。
夕凪とのファーストキスに憧れていた。
でも… 違う。
これは、違う。
こんなファーストキスは、
悲しくて…嫌だ…
身動き一つできず、言葉も出ない。
その代わり、涙がポロリこぼれて落ちた。
私の涙は夕凪のワイシャツの衿から侵入し、彼の肌を濡らした。
夕凪がピタリと動きを止めた。
唇の距離数ミリで、スッと離れて行った。
私を囲う腕も、外された。
「やめた…」
夕凪はそう呟いて、背を向ける。
そのまま階段を駆け下りて、消えてしまった。
私は壁に背をもたれたまま、ズリズリと滑り落ちた。
心臓はまだバクバク煩く鳴り続け、静まってくれない。
夕凪がキスしようとしたのは…
嫌がらせのつもりなのだろう。
じゃあ、やめたのは… なぜ?
分からない。
夕凪が分からない。
これからどいしていいのかも、分からなかった…――――


