おばちゃんが、蓋を閉めながら言う。
「キャンデードロップは、あんたらの為に置いてるようなもんだよ。
今じゃこんな昔の飴、誰も買っていかんてな」
“あんたら”というのは、私と夕凪のことだ。
数ある駄菓子の中で、私達はいつもこのドロップを選んでいた。
大きな青い飴玉は、海の色。
幼い夕凪がドロップを光りに透かして「綺麗だね」と言ったから…
私もこの飴が好きになった。
小さな頃は口に入らなくて、舐めて小さくしてから頬張った。
頬がポコッと膨らんで面白い顔になるから、
二人でお互いを指差し、笑ったんだ。
海色のドロップは、私達の歴史の一部。
いつも二人の想い出と共にあった。
今日買いに来たのは、決意を固めるため。
これを味わって、元の二人に戻りたいと、強く決意するためだ。
明日、夕凪に話しかけてみよう。
無視されるかも知れない。
また嫌いだと言われるかも知れない。
それでも、何度でも話しかけてみよう。
孤立した夕凪が心配…
その気持ちもあるけれど、
本音を言うと、私がもう堪えられなかった。
夕凪と離れているということは、
私にとって、海の見えない場所で生きているような気分だった。


