母親は言葉を失っていた。


離れることを拒否して抱き合う私達を、無言で見つめていた。



しばらくして、

「そう……」

悲しそうな返事が聞こえた。



母親は荷物をまとめて両手に下げた。



「お母さん、東京に帰るわね。
もう、会いに来ない方がいいみたいね……

転院の話は、取り消しておくわ」




夕凪の腕の中から、静かに病室を出ていく母親の背中を見送った。



夕凪と離されずに、ホッとしていた。

安心すると同時に悲しくなった。



息子の心が見えない母親と、
親を拒絶する夕凪。


心の奥には親子の愛情がきっとあるはずなのに、擦れ違ったまま。


このまま母親を帰していいのかと、そんな気持ちが湧いてきた。



「夕凪…… 少し待っていて。
すぐ戻るから」




病室を出て、廊下を走った。


母親のライトブルーのスーツを、
エレベーター前に見つけた。



彼女がエレベーターに乗り込んだ所で、追いついた。


どうしても伝えたい言葉があって、追いかけて来た。