夕凪の心の傷は深い。
約束を破った母親は確かに悪い。
それでも同じ女として、同情してしまった。
息子に拒絶された悲しい母親に、
胸が苦しくなった。
冷えた空気をごまかそうと、母親は作り笑顔で手荷物を開いた。
紙袋から取り出したのは、立派な梨。
デパートで売られているような、
綺麗に包装された梨だ。
母親はニッコリ笑って包みから梨を出し、夕凪に見せた。
「美味しそうだから買ってきたの。切って食べましょう?」
立派な梨を前にして、夕凪は何も言わない。
微かに眉間に、シワを寄せただけ。
サイドテーブルに梨を置き、母親は切ろうとしていた。
黙っている夕凪と、梨を切りはじめた母親を交互に見て、オロオロしていた。
言おうかどうしようか迷ってから、怖ず怖ずと口にした。


