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救急車の中で、夕凪の名前を叫び続けた。
心肺蘇生されている姿も、
赤く染まった体も、
死んだように青い肌も、
震えるほどに恐ろしくて、
夕凪を失うかも知れない恐怖に、
気が狂いそうだった。
病院に着いてからのことは、よく覚えていない。
私も擦りむいた傷を、あちこち手当てされた気はする。
腕や足に、包帯が巻かれているから。
記憶があいまいなのは、心が闇をさ迷っていたせい。
真っ黒にうねる嵐の海に、漂流していた。
陸は見えない。
太陽も月もない、暗い海。
私は小さな木片に掴まり、波に揉まれていた。
木片は頼りなく今にも沈みそうで、黒い海が私を引きずり込もうとしている。


