夕凪も私も心臓が止まりそうなほど驚き、目を見開いた。
道路の反対側には、小さな食料品店がある。
買い忘れでも思い出したのか、重そうな買物袋を下げたお婆さんは、
お店だけを真っすぐに見て、車道を横断しようとしていた。
飛び出したお婆さんを避けようとして、夕凪が急ハンドルを切った。
「グッ……クソッ!!」
タイヤが横滑りして、操縦が効かなくなる。
私が悲鳴を上げた。
お婆さんをギリギリでかわした青いバイクは、
横滑りしたまま、対向車線にはみ出してしまった。
そこに走って来たのは、
大型の輸送トラック……
けたたましくクラクションが鳴らされた。
急ブレーキの嫌な音が、悲鳴のように辺りに響いた。
「潮音っ!!」
バイクから振り落とされた体は、
夕凪に強く抱きしめられる。
夕凪の腕に守られても、道路に打ち付けられた衝撃は凄まじく、
一瞬意識が飛ばされた。
「大丈夫かっ!?
おいっ!しっかりしろ!!」
誰かに大声で呼ばれ、飛ばされた意識はすぐに戻って来た。
体中の、あちこちが痛んだ。
顔をしかめて目を開け、状態を把握する。
私はまだ夕凪の腕の中にいた。
落ちるまで強く抱きしめ、守ってくれた夕凪の腕は、
今は力が抜けていた。


