ドクドク聞こえる速い心拍は、
私のものか夕凪のものか判別できない。
祈る思いで、前方の赤信号を見つめる。
あと30メートル……
20メートル……
10メートルまで近付いた時、
パッと青信号に変わった。
バイクが無事に交差点を通過し、
夕凪も私も、止めていた息を吐き出した。
それでも安心できる状況ではない。
変わらず下り坂は続く。
夕凪が頑張ってくれても、下りられるほど減速してくれない。
「潮音、坂道はあと少しで終わる。それまで頑張れ!」
夕凪がそう言った。
ブレーキが壊れても、坂道じゃなければ止められる。
そこまで行けば、何とか助かる。
その言葉に励まされ、強く頷いた。
「夕凪も頑張って!」
お互いに励まし合っていた。
片道一車線の坂道の周囲は住宅街。
買い物袋を下げた主婦やお年寄りが、行き来していた。
次の交差点も青信号で、無事にやり過ごす。
止める物のない直線道路に幾らかホッとしていると、
前方の歩道を歩いていたお婆さんが、突然向きを変え、車道に入ってきた。


