夕凪はボードと自分の足首をリーシュで繋いでいた。
紐の長さを調節して結び終えると、海に入って行こうとする。
波打際まで歩く夕凪。
素足に波が掛かった時、なぜかピタリと歩みを止めた。
振り向いて、私を手招きする。
呼ばれたので、夕凪の所に行った。
「どうしたの?」
不思議に思ってそう聞くと、
「忘れもの」と言われた。
忘れもの?
手の中のTシャツを見る。
Tシャツを着たまま入ろうと思い直したのだろうか?
でもこのTシャツは普通の物で、
サーフィン用のピッタリしたやつではないし……
手元のTシャツを見ながら、首を傾げていた。
「潮音、こっち見て」
目の前の夕凪にそう言われる。
夕凪の顔を仰ぎ見た直後に、唇を奪われた。
軽く触れるだけのキス。
それでも私の顔は真っ赤になる。
「もう一回……」
そう言って、再び顔を近付ける夕凪だけど、
二回目はなかった。
いつの間にか夕凪の後ろに父がいて、短くなった夕凪の髪をバシンと引っ叩いた。
「痛って!
あ、ケンさん、おはよう」
「おはよう、じゃねーよ。
夕凪〜 うちの可愛子ちゃんに、何してくれんのよ〜」
「何って、キス」
「ぐはぁっ!
父親に向かって、ハッキリ言うな!
もっと慌てろ!」