足がピタリと止まった。
おばちゃんが誰と話しているのか分からないけど、
話題が自分のことだと気付いたから。
店に入ることが出来ず、暖簾の前で立ち止まる。
おばちゃんの和柄の、スポンとしたスカートが見える。
店の奥、ちょうどキャンディドロップを置いている辺りに、人の気配がする。
富倉のおばちゃんは、少し耳が遠い。
いつもの通り、大きな声で話し続ける。
「あの日のこと、ついこの前、健太郎に聞いたんだよ。
雨が降り出したから、てっきり帰ったと思ったのに、
潮音ちゃんは夜の10時過ぎまで、ベンチにいたと言うんだよ。
びしょ濡れで、震えていて、寒かったろうねぇ。
あれは、潮音ちゃんに悪いことした。
ねる前にもう一遍、外を見てやれば良かったと思ってね」
健太郎とは、父の名前。
富倉のおばちゃんにしたら、父も子供のようなもの。
夕凪を待って、雨に濡れていた私。
その話しを、最近父としていたみたい。


