今、無性にあの味が欲しかった。
小さな頃から夕凪と一緒に食べた、
サイダー味の大きな飴玉。
海色ドロップが、恋しくなった。
走って走って、富倉が見えて来る。
田舎道にポツンとある木造2階建ての家は、
まだ閉店していなかった。
全開の引き戸に、夕陽を浴びた暖簾が揺れている。
間に合ったとホッとして、走るのを止めた。
呼吸を整えてから、歩いて店に近づいた。
暖簾をくぐる前に、店の中から富倉のおばちゃんの声が聞こえる。
客がいるのは珍しい。
誰と話しているのか気になり、
もれる話し声に耳を傾けた。
「覚えているよ。夜中に土砂降りになった日だろう?
あたしゃ、潮音ちゃんに悪いことしたと思ってねぇ。
7時くらいに店の前にいるのは、気付いたんだよ。
カーテン閉めようとしたら、そこのベンチに人影があったからね……――」


