私はまだ、上條君の腕の中。
夕凪を見れなかった。
ガタンと椅子を鳴らして、立ち上がる音が聞こえた。
足音がドアの方へ移動する。
ドアがカタリと音を立てた。
夕凪がドアに手を掛けたみたい。
「潮音……」
名前を呼ばれた。
夕凪から呼び掛けてくれるのは、いつ以来か……
その声に怒っている感じはなく、悲しげに聴こえた。
呼ばれた方へ、ゆっくりと顔を向ける。
でも、夕凪を見ることは出来なかった。
上條君が動いて、彼の胸に顔を押し付けられてしまったから。
息苦しいほどに、強く抱きしめられた。
「貝原、帰れよ」
上條君が、もう一度言う。
夕凪の足音が廊下に消えて行く。
ドアが閉められて、教室は静寂に包まれた。
――――……


