- 悠梓side -


「じゃあ、髪切っていきます」

俺は、専門学校を卒業したあと

東京の美容院で働いていた。

いつか自分の店を持てるように、腕を磨いていく毎日。

「美容師さん、イケメンですね」

「どーも」

「でも、ちょっと無愛想」

「よく言われます」

店内に流れているのは、最近流行りの新曲。

「あ、珠李の新曲…

私、珠李好きなんですよね」

俺は客の話に耳を傾けた。

「聞いてたら元気出るし

それにあの歌詞、すっごく共感出来るから…

私も頑張ろうって、勇気もらえます」

それはまさに、あいつが望んでいることだった。

(よかったな、珠李)

「美容師さんは好きですか?

珠李の歌」

「うん。

珠李は俺の奥さんだから」

「へえ、そうなんですか。

…え、珠李が奥さん?!」

「お、おい、勝手に動くな!

変な髪型になっても知らねーからな」

「コラ、佐野、言葉遣い!」

「すみません、店長…」

(まあ、珠李が奥さんなんて、驚くに決まってるよな)