「ねえ、どうして作文読まなかったの?」
「だって…」
彼は小学生の頃から言葉数が少なかった。
「ねえ、作文見せてよ」
そして私は、とにかく天真爛漫な少女だった。
「わ、ちょっと、櫻田!」
「えっと、僕の将来の夢は、美容師になることです…
美容師って髪の毛切る人でしょ?」
「うん…」
私はぱっと目を輝かせた。
「すごい!佐野くんかっこいいー!」
「でも俺、すげー不器用なんだ」
「不器用?」
「うん。
ハサミとか使うの上手くなくて…
だから美容師には向いてないんだ」
私は彼の言葉に首を傾げた。
「美容師はハサミ使うの上手くなくちゃいけないの?」
当時の私は彼にむちゃくちゃな質問をした。
「あ、当たり前だろ!
だって人の髪の毛切るんだから…」
「でも私、将来の夢歌手だけど
全然歌上手じゃないよ?」
「え…?」
「歌は上手じゃないけど、
でも、好きなの、大好きなの!
歌うことが好きで好きで仕方ないの!
それだけじゃ足りないのかな?」
なんて理屈の通らない説明だったんだろう。
でも今でもその気持ちは変わらない。
うまく歌えないけど
私は歌うことが好きだから、大好きだから
歌手になりたいって気持ちはそれだけで十分だって思う。
それから私は彼に一曲歌った。
音程はめちゃくちゃだった。
でも彼はすごく目をキラキラさせてた。
そのことをハッキリと思い出した。
