その日も僕は、小屋の中でごろごろしてたわけさ。
 んで、ふ、と目を開けたら、背中の下に、何かあるのに気付いた。
 半分寝ぼけながら背中の下に手を突っ込んで、それを引っ張り出してみたんだ。

「……」

 何だ、これ。
 白い……布?

 ぼんやりそれを見ていた僕の目が、ぱっちりと開いた。
 同時に飛び起きたよ。

 手拭い!

「さ、佐馬ノ介っ!!」

「来たな」

 向かい側に座る佐馬ノ介は、別段驚いた様子もなくそう言った。
 多分、佐馬ノ介は鬼が僕の後ろにこれを置くところを見てたんだ。

 他の人に佐馬ノ介が見えないように、鬼にも見えないんだろう。
 ただでさえ、鬼は目的の人間しか見えないっていうし。

「教えろよ!」

「それでは意味がないであろうが」

 僕は手拭いを床に叩き付けた。
 そしてようやく、身体が震え出す。

 とうとう来た。
 次は僕が喰われる番だ。

 いざ順番が回ってくると、やっぱり恐怖が湧き上がる。
 腹が据わった、と思ってたけど、前言撤回。
 現実に手拭いが置かれてしまうと、どうしようもなく怖くなって、僕はその場にへたり込んだ。