僕は鬼切丸を抜いてみた。
 ぎらりと光る刀身に、僕が映っている。

「僕に出来るのか?」

 ぽつりと呟く。
 人間追い込まれたら、変に腹も据わるもんだ。

 それにさ、僕は幸運なわけだよ。
 武器も用意されてるんだから。

 そのとき、外を走る音がした。
 ああ、まただ。
 誰かが手拭いを持って走ってるんだな。

 村人が、手拭いを持って走る。
 その後ろを、鬼が追いかける。

 こんなことが、日常なわけだよ。
 そりゃ皆、感覚も麻痺するわな。

 僕は立ち上がって、外を見た。
 走っているのは子供だ。

 子供は僕らの小屋の隣の家に飛び込んだ。
 ちょっとの間を置いて、すぐに出てくる。
 手に手拭いはない。

 子供は小さいし、こそこそと忍び入るのは得意なんだよね。
 特にこういう、昔の家屋なんかさ。

 隣家からは、誰も出てこなかった。
 気付いてないのだろう。
 これで、ひとまずあの子供は助かったわけだ。

 僕は再び座り込んだ。