確かめるようにぶつぶつ言いながら、ハルニレは私の分のコーヒーを淹れる。
自分のは何も入れないブラックだ。
部屋の真ん中にボンと置かれた、巨木を真ん中で割ったようなテーブルに料理が並ぶ。
定員2名では広すぎるそのテーブルにハルニレと私は向かい合って座った。
「いただきます」
声を揃えると、朝食に取り掛かった。
ハルニレが管理人を勤めるこの「やにれ荘」に来てから、1カ月が過ぎた。
ちなみにハルニレというのは、あだ名ではなく、目の前でトーストにバターを塗っているこの男の本名だ。
田中はるにれ、それが彼の名前だった。
始めて彼の名前を聞いた時は、もう私たちの世代にもキラキラネームが浸透しているのかと衝撃を受けた。
何、ハルニレって?と訊き返してしまった程だ。
けれど、それが木の名前だと知って、子供の頃に見た某会社のCM、草原の中に佇む1本の大木だと解って、あぁそうなんだと納得した自分がいた。
別に大木のように背が高いわけでも、がっちりしたわけでもないけれど、ハルニレという名前は彼にしっくりと来るものがあった。
理由なんて特にないのだけれど。