秘書たちは仕事があるからといって、挨拶の後2時間ほどしてから帰っていった。


いつものように、夜食をクリーブといっしょに用意していると、クリーブは後ろからエリンを抱きしめて囁いた。


「君の記憶がある程度もどってからにしようと思っていたけれど、もういい人を演じるのはつらくなってしまったよ。」


「えっ?」


「君とここで暮らしてみて悪くないって思ったんだ。
今みたいに夜食を用意しても楽しいし、君の絵を描く姿を見てるだけも幸せな気持ちになれるんだ。

もちろん、遊びとか一夜の情事なんて考えてない。
真剣に考えたんだ。
君を抱いたからって逃げるまねもしやしない。
君を待とうって思ったのも嘘じゃない・・・けど、もうそろそろ限界なんだ。

イジワルな妹の仕打ちがずっと気に入らなかったけど、君を届けてくれたことだけは感謝してるくらいさ。」



「あの・・・私は・・・私はどこのエリンかもわからないのに・・・。
あなたのことも映画会社の社長でお金持ちなんだっていうことや、妹さんと仲が悪いとしかわからないんですよ。
そんな状態で、こんなこと・・・無理。」



「無理かそうでないか、試してみる価値もないのかな。」



クリーブはそう囁いて、エリンを押さえつけリビングのソファに倒れこんで両手の自由を奪った。


「いや、ダメ!せめて私が何者かわかってから・・・」


「しょうがないな。僕は君が何者かもう知っているよ。」


「えっ・・・私は・・・?」


「君は、エリンティア・クォンテ・ドネリティ。
絵を描くのは店で販売している食器のデザインをするためさ。

わかったら、もういいだろう?」


エリンはその言葉をきいて頭がボォ~っとした感覚にとらわれた。
その隙にクリーブはエリンのシャツを脱がせ、ブラジャーをずらしにかかる。


「あっ!やっ・・・やめて・・・やめてったら・・・レッド・・・助けて!レッドォオオ!」



ガッシャーーーーン!!!


リビングルームのはきだしの窓が割れ、鍵があけられて体格のいい赤い髪の気の男が勢いよく部屋へ乗り込んでくるなり、クリーブを殴り倒していた。


「もっと、早くここへ来ればよかった。
こんな時間にどうかと迷ったけど、俺はどうやら神様にも後押しされてたらしいな。
あんちゃん、この娘だけはあんたに譲れない。

俺たち家族の一員だから、悪く思わないでくれ!
ご指名いただいた責任で連れて帰る。
あんたにこの娘を守る気があるなら、まずは義妹を何とかしてほしい。

あんたが今やろうとしたことは、義妹は計算づくだったんだ。
そしてこの娘の心を破壊することが、リエッタの真の目的なんだ!」



「なんだって・・・」


「この場は俺がエリンをさらって逃げる。いいな。」