夕方、エリンがドネリティ社へ向かおうとガオンティル社から出てすぐのこと。


「エリンティア、これから化粧をおとして着替えるんだろ?
話もあるんだ。うちに寄って行くといいよ。」


「あ・・・リガオン。」


エリンはリガオンの運転手に促され、車に乗ってリガオンの邸へと向かった。


「帳簿がないんだって?肝心なところの書類がみんなないっていうのは困ったことになったね。」


「ええ、こんなに先手をとられたなんて、仕事と会社をよく知っている人物でなきゃできない。
でなかったら共犯者が複数いることになる。

ほんとなら、君がうちの会社にやってくるときには業績はともかく、クリーンな会社でいろいろ説明したいのに。
こんな細かい作業を社長の君に直接やらせるとはね・・・。すまない。」


「それは、私が好きでやってきたんだから気にしないでよ。」


「ほんとに君は昔から自分の手腕だけを信じてバリバリ仕事してたよね。
僕もドネリティに入社すればよかったなぁ。」


「何を言ってるのかしら・・・リガオンだって飛び級でなんでもこなしてきたのに。
よく言うわ。」



「まぁ取締り役をしてくれって頼まれたからしたけれど、こうなっては単なる合併用の駒だね。
でも、相手が君なら僕はぜんぜんかまわないんだけどね。」


「うふふ。まぁ、お気持ちはわかったけれど、不正の部分が明らかにならないとね。」


「そうだな。それにしても、なくなった帳簿や帳票類はどうなってしまったんだ。
コンピュータの中も空とは八方ふさがりだなぁ。」


「そうね。それがどこから出るか・・・もしくはずっと出てこないのか。」



リガオンの邸内でメイクを落として着替えをしていつものエリンの姿にもどって邸を出ようとすると、リガオンが車を自分で運転して追いかけてきた。


「お嬢様、あまりにつれないじゃないですか?
仕事場まで私がエスコートします。いいでしょ。」


「え、ええ。
忙しいのに、ごめんなさい。」


「僕はそんなに実務はないので大丈夫だからね。
それにまだ、君をあきらめたわけじゃないからね。」


「あ・・・でも・・・」


「それとも他に気になる男がいるのかな?」


「そんなことは・・・。」


ドネリティ社に着いてエリンはリガオンにお礼を述べると、リガオンはエリンの唇に軽くチュッとキスをした。


「じゃ、残業はほどほどにね。また明日。」


「もう・・・リガオンったら。」
(幼なじみといっても、お互いの知識にしか興味なかったはずなのに。)