「蒼真、開始時間になってもいないから、もう来ないかと思ってた」
「あー、ちょっと仕事長引いてさ」
そう言われて見れば、彼の格好は仕事終わりなのだろうとわかるスーツ。ジャケットは脱いでいるけれど。来ている人でスーツや白シャツは普通にいるから、あまり気にしていなかった。
「そうなんだ。お疲れ様」
「おー。今不動産会社で働いてんだけど、大人になってから大人のすごさって初めてわかるのな」
「ああそれ、わたしも思う。親を改めて尊敬するよ」
「うん、すげー大変」
不動産会社で働いているのか。でも、働くってどんな職業でも大変なこと。わたしも実感してる。一般に男の人は家族を養わなければならないから、もっと大変なんだろうな。
ふう、と溜息をつき、彼は右手に持ったグラスに口をつける。
その姿を見てわたしは、一瞬目を見開き静かに驚いた。
そして、ぽろりと零れ落ちるように言った。
「...結婚するの?」

