そ、それにしても疲れる。疲労のせいでいつもより顔に油が浮くのが恐ろしい。

 休む間もない激務の間に、化粧崩れはもう限界値。

 メイク直したい。メイク直したい。直したい直したい直したいぃー!


 ストレスで頬がひくひく痙攣し始め、本当に倒れそうになった頃に、ようやく休憩の交代時間になってくれた。

 あたしはダッシュでトイレに駆け込み、慌ててメイク直しをする。

 顔に化粧水をスプレーしたティッシュを乗っけて、「うぉお~!」とビールを飲んだ中年男みたいな声を出した。


 はー、やっとひと心地着いた! メイク崩れが気になって気になって死にそうだった!

 大勢の人前で鉄仮面が崩れていく感覚は、あたしにとって恐怖そのもの。

 しかも自由に直す時間もとれないなんてまるで拷問だ。冗談抜きで今にも心臓発作を起こしそうだった。


 ライトの熱のせいで崩れるのも早かったな。

 不覚だわ。もっと対策を万全に練らなければならない。

 そう考えながらファンデを塗り直しているうちに、徐々に気持ちが落ち着いていくのを実感した。

 ……なんかあたし、麻薬中毒患者みたい。


 念入りにメイクを直してからゆっくりと食事を済ませ、ちょっと会場内を覗いてみた。

 詩織ちゃん、お昼ご飯どうするのかな? 食べてる時間あるんだろうか?

 でも『プリンセス』は交代できないしなぁ。


 こっそり邪魔にならないようにキョロキョロすると……お、いたいた。ウチのプリンセス。

 うっわー。まさにこれは、プリンセスだ!