詩織ちゃんがハンドモップを振り回しながら吠えた。
 月曜日と木曜日には、新人の私たちのための勉強会が開かれることになっている。
 近藤さんというのは、その講師をしてくれる近藤晃(こんどうあきら)さんという宝石鑑定士さんのことだ。
 どんな人かを手っ取り早く説明すると……イケメンです。はい。

 初めて会ってからまだひと月ほどだし、個人的な話をしたこともないから人柄なんかわからないし、『この人カッコイイな』ぐらいしか印象にない。
 詩織ちゃんにとってはそれが最重要事項らしいけど。

「聡美ちゃん、会議室行こうよ! 会議室!」
「でもまだ掃除が済んでないよ?」
「そんなのいーっていーって! 早く行こうよ!」

 詩織ちゃんはニコニコしながら私をうながす。
 このまったく悪びれない様子からして、学生時代も教室掃除から要領良く逃げ回ってたタイプとみた。

「でも掃除が……」
「あー、もう! 私先に行ってるからね!」

 パタパタと小走りに駆けていく彼女の向かった先は、会議室じゃなくて従業員控え室だった。
 きっとメイク直しするつもりだな? まだ勉強会まで三十分も余裕あるのに気合い満々だね。
 さてと、私も急いで掃除を済ませてメイクを直さなきゃ。
 戦闘服で武装するために、ね。