「すみませんけど、ちょっと最近忙しくて」

 気づけば私は、晃さんの誘いを断っていた。

『べつに急ぎじゃないんだ。聡美さんの時間が空いた時にでも行かない?』
「すみません。本当に忙しくて、いつ時間がとれるかわからないんです。ごめんなさい」

 ほんの一瞬だけ流れる沈黙の時間が、ものすごく長く感じる。
 ごめんなさい、晃さん。でも私は……。

『それなら仕方ないね。またいつか一緒に行こう』
「はい」
『忙しい時に、ごめん。それじゃまた』
「はい。それじゃ」

 電話を切って、静かに思う。
 また、なんてもう二度とないだろう。晃さんはもう、誘ってなんてくれないだろう。
 もちろんそれはとても残念だし、すごく寂しいし、悲しい。
 でも、もしこのままどんどん親しくなっていったとしても、どうするの?
 彼はいずれ必ず、お姉ちゃんの存在を知ってしまう。
 美しく輝く天然宝石のような姉を見たとき、宝石鑑定士である晃さんの反応は?
 そんなこと、想像するだけで胸が苦しい。
 子どもの頃から何度も味わってきた、心臓の中に異物が入り込んでしまったような鋭い痛みが襲ってくる。
 またあんな苦しい思いをさせられるくらいなら、拒絶してしまった方がよほど楽だ。

 だから、こうするのが一番いいんだ。
 そうに決まっているんだ。