天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 毎年のプリンセスは加盟店が順番に持ち回りしていて、今年は五百蔵宝飾店の番。
 専務や常務や部長といったお偉いオジサマ上役たち全員一致の、詩織ちゃん推挙だったらしい。
 ジュエリーという、夢と憧れをお客様に提供できるような容姿を兼ね備えている君をモデルに決めたから、受けてほしい。

「そんな風に言われちゃったのー! そんなこと勝手に期待されても困っちゃうー!」

 はち切れそうに喜色満面、頬を紅潮させながら詩織ちゃんは全力でカッ飛ばす。

「なんかさ、警備員がね、展示会の間中ずーっと私を警護するんだって! 私になにかあったら困るから!」

 いやそれ、詩織ちゃんじゃないでしょ。
 なにかあったら困るのは、サファイアとルビーでしょ。

「んもう、頭にきちゃう! 注目されるの昔からほんとに苦手なのに!」

 いやそれ、嘘でしょ。
 注目浴びるの昔から生き甲斐でしょ。
 なんで苦手な人がSNSでフォロワー集めるのに必死になるのよ。

「嫌だあ、緊張するー! 緊張して失敗しそうな気がするー!」

 いやそれ緊張じゃなくて陶酔でしょ。
 MAX状態になった詩織ちゃんが、マイク握りしめて小指立てながら歌でも歌いださないか、そっちが心配だよ。

「あぁ、プリンセスなんて嫌だあ!」
「そんなに嫌なら断れば?」
「えー、でもー、もう決まっちゃってるから断れないよ、きっとー!」

 ひとしきり興奮しまくった詩織ちゃんは、上機嫌で「嫌だ嫌だ」を連発しながら席を立った。
 たぶん今回の大抜擢をSNSにアップするんだろう。
 そのイソイソした背中を見送りながら、私はため息をついた。