それに、人に見られると困る。

「その指輪どうしたの?」なんて聞かれたら、なんて答えればいいのか分からないもの。

 自分で買ったなんて嘘はつきたくないし。……てか、そりゃ確実にバレるわ。

 宝飾店に勤めながら、自店で扱ってない商品を身につけていたらさすがにマズかろう。


 晃さんにプレゼントされた、なんて事を言ったら誤解されそうだし。

 彼に迷惑をかけてもいけない。そういう誤解はされないように、ちゃんと配慮しないと。

 そう思うあたしの心に、ふとあの言葉が蘇る。


『聡美さんを、ずっと見ていたい』


 彼は、どんなつもりであの言葉を言ったんだろう。

 彼の口から予想外に飛び出した20倍鑑定ルーペのせいで、結局話が笑いの方向に向かってしまったから、真意は分からないまま。


 深い意味は、無いんだろうとは思う。

 単純に女性へのリップサービス程度のつもりだったんだろう。

 それかホントに単純に、あたしを見てて面白いから見学したいのか、どっちかだ。

 たぶんきっと、そういうことだろう。けど。


 また心が遊色効果のようにユラユラとざわめく。

 オーロラのようにふわりふわりと色めき立って、晃さんと一緒に過ごしたひと時が頭から離れない。

 夜の街の空気。絶え間なく聞こえる水音。美しくライトアップされた噴水。

 ふたりで腰掛けた白いベンチ。晃さんの恥ずかしそう瞳。楽しそうな笑い声。


 ……秘密にしておきたい。

 誰にも気付かれずに、胸の中に大切にしておこう。このエメラルドの指輪と一緒に。

 勤務しながら揺れる指輪を服の上から押さえるたび、あたしは小さな幸福感を感じていた。