涼やかな水音と、揺れて輝く色彩。
 周囲のベンチを埋め尽くしている幸せそうなカップルたちは、きっと愛の言葉を交わし合っているんだろう。
 私たちの間に交わされた言葉は、宝石知識と20倍鑑定ルーペ。
 それでも私は、周りのカップルに負けず劣らず楽しい気持ちだった。

 こんな楽しい時間を過ごせて本当に嬉しい。
 きっと晃さんなら、私が本心から楽しいと思ってる気持ちを見抜いてくれているはず。
 それはとても素敵なことに思えた。

 ひとしきり笑い合ったあとで、私たちはベンチから立ち上がった。
 そしてお互いに感謝の言葉と挨拶を交わし合い、それぞれ帰路に着いた。
 晃さんは家まで送ってくれる気満々だったけど、それは丁重に辞退させてもらった。
 まだそんなに遅い時間でもないし、それにもしも家で晃さんがお姉ちゃんに遭遇したらと思うと……。

 バスに揺られながら私は窓の外の夜の街を眺める。
 そして、薄っすらとした不安感に苛まれた。

 晃さんはお姉ちゃんの存在を知らないのだろう。
 でも知られてしまうのは時間の問題かもしれない。
 そうしたら、彼はどうするだろう?
 今までの男たちのように、お姉ちゃんに心を奪われてしまうんだろうか。
 そして私に対して、酷い仕打ちを平気でするようになってしまうんだろうか。

 今日彼と一緒に過ごした楽しい時間と、これから向き合うことになるかもしれない不安な未来。
 その狭間で、私の心がオパールの遊色効果のようにユラユラ揺れている。
 言葉では言い表せないような、たくさんの複雑な思いが浮き上がってくるのを、私は押さえきれずにいた。