「遠慮しないで」
「いえあの、遠慮っていうよりもですね、これは常識の範囲超えというか、良識の範疇外というか!」
「聡美さんって……面白い、ね……」

 ついに耐えきれなくなったようで、彼は肩を揺すってクスクスと笑い出す。
 いやあの、これ、笑いごとじゃないんですけど!?

「こういう仕事をしているとね、たまにすごい掘り出し物を手に入れる機会があるんだ。これはその一品で、そんなに必死に遠慮されるほどの物でもないよ。どうぞ安心して」
「で、でも!」

 だからといって「そーですか。じゃ、遠慮なく」というわけにはいかないじゃないの!
 手に持ったエメラルドをどうすればいいやら、困惑してしまう。

「どうか受け取って欲しいんだ。本当にあのときは、一歩間違えば命にかかわる大惨事になってたかもしれないんだし」
「命にかかわらなかったんだからだいじょうぶですよ!」
「そんなことないよ。それにお互いの良い教訓にもなるし」
「教訓?」
「そう。エメラルド事件の教訓さ」

 晃さんはイタズラっぽい笑顔でそう言った。
 エメラルド事件か……。
 うっかりエメラルドを超音波洗浄しようとした私。
 うっかり私をド突き飛ばした晃さん。
 そしてこうして二人で食事して。
 そして……私は生まれて初めて、男性から宝石を贈られてしまった。

 本当だ。これってまさに事件だわ。

 私は彼の笑顔とエメラルドリングの輝きに、もう、胸がいっぱいになってしまった。