バスを乗り継いで自宅に帰りつき、「ただいまー」と挨拶しながら扉を開ける。


「あら、おかえりなさい」

「うわビックリした!」


 驚いて仰け反ったあたしは、目の前の不満そうなお姉ちゃんと目が合った。


「嫌ね。なによ、人をお化けみたいに」

「だ、だって玄関開けたすぐそこに居るなんて、思わなかったから」


 不意打ち食らうと心臓に悪いのよ。

 家族だからその美貌を見慣れてるけど、いきなり出てこないでよね、まったく。


 動悸を落ち着かせながら、あたしは目の前の姉の姿を見つめた。

 この人があたしの実の姉。

 絶世の美女、槙原 満幸(まきはら みゆき)


 黒真珠のように艶めくストレートロングヘアは、あまりにも真っ直ぐ過ぎて、結っても髪ゴムが滑り落ちてしまうほど。

 クセのクの字も無い髪は、一度もパーマをかけた事が無い。

 美容師さんが嫌がるの。

「こんな美しい髪に薬剤をかけるなんて、私にはとてもできません」って、必ず拒否されるから。


 見つめられると吸い込まれそうな、水晶のように透明感のある大きな目。

 飾る睫毛の長さも、絶妙なカールも天然。

 以前、目にぶつかりそうになった虫を、この人は睫毛で叩き落としたことがある。