女は誰でも、美しいものが好き。

 とりわけあたしはもう、末期症状的に美しいものが大好き。

 この感情は、もはや執着といっても過言ではないと思う。


 だから当然、宝石類に対しても身震いするほど惹かれてしまう。


 そんなわけでこの春大学を卒業したあたしは、上京したがる友人たちを尻目に、迷わず地元に就職した。

 目指すは子どもの頃から憧れていた宝石店。

 創業百年以上にもなる、地元の誇る老舗店。


 この、栄えある『五百蔵宝飾店』に!


 ……ちなみに五百蔵とは、『いおろい』と読む。


 別に当て字でもなんでもなくて、本当にこれが店長一族の苗字。

 世間には縁起のいい苗字があるのね。「五百も蔵が建つ」なんて。

 実際に商売も軌道に乗ってるし、名は体を表すってこういうことかしら?


 さすがに堅苦しいから、時代に合わせて店名を横文字に変えようって話も、今まで何度も出たらしいけど。

 歴代の店長が頑なに『うちの苗字に何か文句があるのか!? 』で突っ張り通してきた。

 ここらへんの誇り高いポリシーも、あたしの美しいもの好きのツボをくすぐられてしまう。