「では今日の講習はここまで。次回までによく復習しておいてください」
「復習かぁー。大学卒業したのにまた勉強するハメになるなんてー」

 近藤さんと詩織ちゃんの会話を聞きつつ、今日の講習のプリントをバインダーに挟んだ。
 話半分しか聞いていなかったし、あとでよく目を通しておかないと。

「じゃあ、これで失礼します。また月曜日に来ます」

 そう言って立ち上がった近藤さんに、すかさず詩織ちゃんが近寄った。

「晃さん! 私が玄関までお見送りしますー!」
「いや、どうぞお気遣いなく」
「だからぁ、遠慮しないでくださいってば、もう!」

 にこぉっと極上の笑顔を披露して、詩織ちゃんはこっちに向き直った。

「聡美ちゃん、私は晃さんをお見送りしてくるから、先にここの片付けしててね」

 問答無用で詩織ちゃんが近藤さんを連れて行く。
 ふたりが会議室から並んで出ていくのを確認してから、ふうっと息を吐きだした。

 詩織ちゃん、まず間違いなく戻って来ないな。
 私に片付けを押し付ける魂胆なのが手に取るように読める。
 まあ、いつものことだ。もう慣れっこだよ。
 手早く急須と茶碗をお盆に乗せ、イスの位置を元に戻していると扉が開く音がした。
 お? 詩織ちゃん、珍しく心を入れ替えて戻って来たの?