「聡美ちゃん……」

 物陰から、小さな声がする。

「もう、終わったの?」


 見ると壁の陰から詩織ちゃんが、恐る恐るといった様子でこっちを覗き込んでいる。

 あたしは明るく笑って、詩織ちゃんに向かって頷いて見せた。


「うん、終わった。出てきても大丈夫よ」

「なんか、凄い大騒動だったねー」

「ごめんね、大騒ぎになっちゃって」

「んー、ビックリしたけど、でも」


 詩織ちゃんはニコリと微笑みながら、言ってくれた。


「聡美ちゃん、カッコ良かったー! あたし応援しちゃったよ!」

「ありがと。ふふ」

「それにしても嫌な男だったね。最低じゃん」

「昔からああいうタイプだったからね。三つ子の魂百までってヤツじゃない?」

「百歳までああなのかー。それはそれで凄いけど、お近づきにはなりたくないな。こっちの人生、疲弊して擦り切れそうだもん」


 皆が去った方向を見ながら、詩織ちゃんがしみじみした口調で言った。

 それが可笑しくて、あたしはまた声を上げて笑う。


 考えてみたら笑っていられる状況じゃないんだけどね。

 クビかな? こりゃ。

 もしそうなってしまったら、それは勿論残念な事だし、お店に迷惑をかけたわけだから申し訳ないけれど。


 それでもやっぱり、今のあたしの心はとても気持ちいい。

 迷惑かけておきながら、勝手に清々しい気分になっちゃって御免なさい。栄子主任。


 軽やかに肩の力が抜けている。

 思い切り一気にパッドを剥がした頬が、少しヒリヒリした。

 あたしはそっと手を当て、思う。