天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 気をつけよう。ほぼスッピン状態じゃ感情が簡単に顔に浮き出てしまう。
 こいつが嫌なヤツなのは間違いないけど、お客様であることも間違いない。

「あら?」

 お嫁さんの目が、ひとつのエンゲージリングに止まった。

「これ、インターナリーフローレスかしら?」

 インターナリーフローレス。10倍拡大で鑑定しても内包物が全く見つけられないクラリティ。
 最高評価のフローレスに次いでの高評価クラスだ。


「インターナリーフローレスのダイヤモンドはこれひとつだけなの?」
「はい。市場に流通する数が非常に希少ですので。当店でも、このひとつのみの扱いとなっております」
「ふうん、珍しいのね。ひとつだけ……」

 お嫁さんはだいぶ気になっている様子だ。希少な物で、これひとつだけって部分がポイント高いみたい。
 そうよね、エンゲージリングは特別な指輪だもの。他にはない希少な一点を選ぶってのもアリよね。

「ねぇ和クン。これ素敵じゃない?」

 明るい表情でその指輪を指差しながら、お嫁さんは和クンにお伺いをたてた。
 すると和クンは「どれ?」と一瞬見て、すぐに言った。

「あ、これダメ。小さい」
「え?」
「こんな小さいダイヤモンド、貧相過ぎる。もっと大きくて見栄えがいいのがあるだろ?」
「でも、珍しいものらしいし」
「ダメダメ。オレがこんな小さいダイヤしか買ってやれない男みたいに思われるじゃん。絶対ダメ」

 ……黙って金を出すんじゃなかったのか、お前は!
 なんなのよ! さっきからダラダラ文句ばっかり垂れて!