天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 お嫁さんは慣れているのか聞き流しながら、栄子主任が新しく運んできたエンゲージリングの説明を熱心に聞いている。
 例のダイヤモンド鑑定の『4C』の説明だ。

「どれも綺麗に見えるし、選ぶのが難しくて迷ってしまうわ」
「どのお品も、当店が自信を持ってお勧めできるお品でございます」
「あのぅ、エンゲージリングってダイヤモンドじゃなきゃダメなんですか?」
「そんな決まりはございませんよ。ご自分の誕生石や、ご自分の好きな宝石を選ばれるお客様もいらっしゃいます」
「そうなんですか? じゃあ、ちょっと見てみたいな」

 興味深そうなお嫁さんに、和クンがまた横から口を挟んだ。

「なに言ってんだよ。今どきエンゲージリングはダイヤに決まってるだろ? なあ母さん」
「そうね。やっぱりダイヤモンドでしょうね。そうしなさい、萌香さん」
「……はい」

 ふたりに反対されてお嫁さんは諦めてしまった。
 なんだか可哀そう。見るくらいべつにいいじゃないの。
 お嫁さんはまたダイヤモンドを選び始めたけど、本当に悩んでしまっている。
 ひとりで困っている様子がどうにも気の毒で、つい、和クンに話しかけてしまった。

「あの、せっかくですから、どうぞご一緒にお選びになってください」
「はあ? こういうのは女が自分で選ぶもんだろ? 男は黙ってそれにポーンと金を出すのがカッコイイんじゃん」

 ……お前、金出してないだろーが!
 だからせめて一緒に選んでやれって言ってんのに!
 という心の中のツッコミがボロッと口から出ないように、グッと唇を結んだ。