天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 ニコニコ顔で店頭に向かうあたしの耳に、聞き慣れない複数の声が飛び込んできた。
 あら、お客様? 若い男女の声ってことは、ひょっとしてエンゲージリング選びかな?
 そっと様子を伺うと、予想通り若い男女が、数種類のエンゲージリングを前にして選んでいる。

 その男性の方の顔に、見覚えがあるような気がした。
 どこで見かけたんだったかしら。 ……あ!

 頭の中で突如警報ブザーが鳴り、警察犬顔負けの嗅覚が正確に作動し始める。
 思い出した! あいつ、大学で私にちょっかい出してきたヤツだ!
 もちろんお姉ちゃん目当てで!

 確か実家が結構な資産家だったんだよね。それを自慢してて、人を見下してて、態度から何から生粋の嫌な奴だったな。
 私にソッポ向かれた後で、直接お姉ちゃんをお金の力で釣ろうとしてたけど、すっごい迷惑がられてたっけ。

 うわー。あいつ結婚するのかぁ。
 お嫁さん、物好きだなぁ。きっと奉仕の精神に生きるタイプなのね。
 それともあれから社会の波に揉まれて、あいつも少しはマシな人格になったのかしら。

「こちらのシリーズも、どうぞご覧になってください」

 栄子主任が勧めたのは、最近の若い人たちに人気のエンゲージリング。
 ちょっと石が小さめだけど品質は良く、比較的お手頃価格で、デザインも可愛らしいのが多い。
 するとあいつは、ジャケットのポケットに両手を突っ込みながらチラッと眺めて言った。

「……ハッ。ちゃちぃ品だな」
「はい?」
「ダメ。どれもちゃち過ぎる。もっとハイクラスなの出して」

 これだけでもムカつく態度なのに、さらにあいつは栄子主任に向かって笑いながら暴言を吐いた。

「こんな安物をオススメされたの、オレ初めて。もっと客質を見抜く目を養わなきゃダメよ? 主任さん」