天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 病院でキミは言ったね? 自分はイミテーションだと。

 あの時俺は「分かった」と、ひと言だけ答えた。

 それは、キミが何を隠していたのかがわかった、という意味だ。
 
 自分をイミテーションだと思っていることを知ったという意味だよ。

 聡美さんが自分をイミテーションだと思うなら、それはそれで構わないと思う。

 自分のことを決めるのは自分自身だ。俺に聡美さんのなにかを決定する権利なんてない。

 それに、俺はべつにどうだっていいんだ。そんなことは。

 ……ああ、違うな。こんな書き方したらまた誤解をされそうだ。

 そうだな、まずは……俺の父と母の話をしたいと思う。


 俺の父と母は熱烈な恋愛結婚でね。

 でも双方の親から結婚の承諾を得ることができなかったんだ。

 父は貧しくて、母を養えるだけの稼ぎがなかったから。


 それでも恋は盲目で、反対されればされるほど……ってやつだよ。

 ふたりはお互いの家を飛び出した。

 つまり、駆け落ちしちゃったんだよ。

 駆け落ちする前、父は母に婚約指輪を贈った。

 大きなダイヤモンドのエンゲージリングだよ。

 ただし、イミテーションのね。

 結婚も許してもらえないほどお金の無い父が、本物なんて買えるわけがない。

 しかも素人目で見ても一発で見破れるような、ちゃちなオモチャだ。

 そのオモチャを両手で捧げ、地面にひざまづき、父は母に正式にプロポーズしたんだ。


『今はこんなオモチャだけれど、一生かけて、絶対に本物のダイヤモンドをキミに捧げると約束する』


 もちろん母は承諾して、ふたりは手に手を取って地元を飛び出した。