見ればたしかに、白い封筒の宛名には私の名前が書かれている。

「なんかね、どうしても伝えたいことがあるから手紙を書いたって。聡美ちゃんが復帰したら必ず渡してくれって頼まれたの」
「そ、そう? ありがとう」
「じゃあ、確かに渡したからね。ゆっくり休んでてねー」

 詩織ちゃんはそう言ってドアを閉め、仕事へ戻って行った。
 ひとり控え室に残った私は、穴が開くほど封筒を眺める。
 中にはなにが書かれているんだろう。伝えたいことってなんだろう。

 一刻も早く読みたいけれど読むのが怖い。
 もしも読んだ後で立ち直れなくなるような、叱責が書かれていたらどうしよう。

 延々と悩んでいる間に無意識に手に力が入って、封筒がシワになる。
 慌ててシワを伸ばしながら、ついに決心した。
 読もう。どうせ後悔するなら読んで後悔した方がマシだ。
 どんなに酷い内容だったとしても、まさか文字読んでショック死するほどの祈祷は込められてないだろう。
 思い切って封を切り、中から便箋を取り出して広げた。
 数枚の便箋に丁寧に綴られた文字を見て、私の心臓が早鐘のように打つ。
 気を鎮めるために大きく息を吸い、大きく吐き出し、それを三回繰り返して結局何の効果も得られないまま、私は激しい動悸と共に文字を目で追い始めた……。



 槙原聡美様


 これを読んでいるということは、仕事に復帰したんだね。

 おめでとう。無事に回復して本当に良かった。

 お見舞いに行ったけれど、お母さんに断られて会えなかったんだ。予想はしていたけどね。


 でも俺は、どうしてもキミに伝えたいことがある。

 直接話せない以上、手紙という形式が一番ふさわしいと思ったんだ。

 長い内容になると思うけれど、どうか最後まで読んで欲しい。