天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 ちょうどそのとき、説明を聞き終えたらしいお父さんとお母さんが戻って来た。
 私の様子を伺うように、おそるおそる話しかけてくる。

「聡美、あのね、怪我のことだけど……」
「お父さん、お母さん、私なんだか疲れちゃった」

 自分でも奇妙に感じるくらい、感情のない声だと思った。
 色んなものが私の中からスポンと抜け落ちてしまったようで、声に力も入らない。
 あ、そういえば私、治療の時に化粧落とされたんだっけ。
 あー……。ついに晃さんに見られちゃったなぁ。素顔。

「私、家に帰りたい。ダメかな?」

 お父さんとお母さんがお互いの顔を見合わせ、そして慰めるような優しい声で言った。

「いいわよ。もちろん」
「警察への説明は明日にしてもらうように、お父さんがちゃんと言っておくからな」

 私はコクンと頷き、病院の玄関に向かって歩き始めた。
 お母さんが肩を抱きながら、ゆっくり一緒に歩いてくれる。
 晃さんの視線を背中に感じたけれど、なにも思うことはなかった。

 だって素顔も、イミテーションの事実もさらけだし、そして暴漢に顔を切られ、そのうえ姉の存在も知られて。
 これ以上、今さら何をどう取り乱せと言うのか。自嘲の笑いすら出てこない。
 玄関のガラス戸の向こうに広がる闇を見て私は立ち止まり、無意識に口を動かした。

「ブラッドストーン……」
「なに? 聡美、なにか言った?」

 お母さんが聞き返してきたけど、私は何も答えなかった。
 ブラッドストーンは闇のように濃い緑の石の表面に、赤い血が飛び散ったような玉だ。
 暗闇の中で鮮烈に赤かった、血。
 闇と血か。ふふ、……私にお似合いだ。
 私は小さく笑いながら再び歩き始め、闇の中へと踏み出した。