逃げながら大声で周囲に助けを求めること。
でも『助けて!』と叫んでも、触らぬ神に祟りなし精神で無視される可能性が高い。
効果てきめんなのは、『火事』のひと言。
もし本当に火事なら、自分の家も被害に遭いかねないので、この単語を聞けば大抵の人は外の様子を気にかける。
……って、テレビの護身術教室で教えてたのを覚えててよかったー!
「火事です! 火事、火事ー! あとなんか変態もひとりいるー!」
絶叫しながらお姉ちゃんの腕をグイグイ引っ張り続けた。
なんとか立ち上がろうとしたお姉ちゃんは、足でも捻ったか腰でも抜かしたか、ヘナヘナとその場にまた倒れてしまった。
その間に男の方が立ち上がり、興奮した目で飛びかかってこようとした。
「きゃああぁーー! 来ないで変態ーー!」
私はショルダーバッグを力一杯ブンブン振り回した。
目の前の男は殴られながらも、明らかに常人とは違うギラついた目で叫んでいる。
「オレは変態じゃない! オレは槙原満幸の伴侶であり、支配者だ!」
「やっぱり変態じゃないの! なんであんたがお姉ちゃんの伴侶なのよ! ただの他人でしょ!」
「他人じゃない! 満幸とオレは一度も話をしたことがないだけだ!」
「だからそれを他人って言うのよ! 真っ赤な他人を通り越して、どす黒いほど完璧な他人よ!」
男は焦点を失った目をしてギーギー叫び続け、ついに手の中の刃物をこちらに振りかざしてきた。
「満幸! あぁ、オレの満幸ぃー!」
――シュッ……!
頬に、ものすごく嫌な感覚が走った。
新品の紙で指を切った時のような、とても気持ちの悪い感触を感じて、私は反射的に頬に手を当てうずくまる。
キリキリと鋭い痛みが走って、次いで恐怖が込み上げてきて、頬に当てた手を離しておそるおそる確認してみた私は、短い悲鳴を上げた。
……手のひらが血で染まっている!
顔を……顔をナイフで切られてしまったんだ!
でも『助けて!』と叫んでも、触らぬ神に祟りなし精神で無視される可能性が高い。
効果てきめんなのは、『火事』のひと言。
もし本当に火事なら、自分の家も被害に遭いかねないので、この単語を聞けば大抵の人は外の様子を気にかける。
……って、テレビの護身術教室で教えてたのを覚えててよかったー!
「火事です! 火事、火事ー! あとなんか変態もひとりいるー!」
絶叫しながらお姉ちゃんの腕をグイグイ引っ張り続けた。
なんとか立ち上がろうとしたお姉ちゃんは、足でも捻ったか腰でも抜かしたか、ヘナヘナとその場にまた倒れてしまった。
その間に男の方が立ち上がり、興奮した目で飛びかかってこようとした。
「きゃああぁーー! 来ないで変態ーー!」
私はショルダーバッグを力一杯ブンブン振り回した。
目の前の男は殴られながらも、明らかに常人とは違うギラついた目で叫んでいる。
「オレは変態じゃない! オレは槙原満幸の伴侶であり、支配者だ!」
「やっぱり変態じゃないの! なんであんたがお姉ちゃんの伴侶なのよ! ただの他人でしょ!」
「他人じゃない! 満幸とオレは一度も話をしたことがないだけだ!」
「だからそれを他人って言うのよ! 真っ赤な他人を通り越して、どす黒いほど完璧な他人よ!」
男は焦点を失った目をしてギーギー叫び続け、ついに手の中の刃物をこちらに振りかざしてきた。
「満幸! あぁ、オレの満幸ぃー!」
――シュッ……!
頬に、ものすごく嫌な感覚が走った。
新品の紙で指を切った時のような、とても気持ちの悪い感触を感じて、私は反射的に頬に手を当てうずくまる。
キリキリと鋭い痛みが走って、次いで恐怖が込み上げてきて、頬に当てた手を離しておそるおそる確認してみた私は、短い悲鳴を上げた。
……手のひらが血で染まっている!
顔を……顔をナイフで切られてしまったんだ!



