他の通りでタクシーを拾おうかな?
 そう思って方向を変えようとしたとき、ふと不審なものが目に付いた。
 通りの角からフラリと姿を現した男が、お姉ちゃんの背後を歩いている。

 その男のなにかが、うまく言葉で表現できないけど私の心に引っかかった。
 訝しく思いながら男の様子を伺う私の頭の中に、今朝のお母さんとの会話が蘇る。

『満幸ね、また誰かに付き纏われてるみたいなのよ』

 ……まさかあいつがお姉ちゃんに付き纏ってるストーカー?
 いや、でもただ後ろを歩いてるってだけの理由でストーカーと決めつけるのもどうだろう。
 いや、でももし本当にストーカーだったら?
 いや、でも……ああぁ! もう!
 お姉ちゃんたら、こんな時に外出なんかしないでよね!
 物心ついたときから常に誰かに付き纏われるような生活してるもんだから、変に慣れた感覚があるらしくて、たまに危機意識が薄れちゃうときがあるんだから。

 とりあえず私は早歩きをしながら、わざとヒールの音を響かせて自分の存在を男にアピールした。
 でも男が気にした様子はなく、そのままお姉ちゃんと一定の距離を開けて歩き続けている。
 やっぱりただの通行人なのかな?
 そう思って少し気が緩んだとき、なにかが男の手元で薄く銀色に光ったように見えた。
 その光の正体が何なのかを悟って、私の喉がヒッと鳴る。

 あれは刃物だ!

 一気に血の気の引いた頭の中で、大音量の警報が鳴り響く。
 次の瞬間、私は無我夢中で金切り声を上げながら全力で走り出していた。

「お姉ちゃあぁぁーーーーん!」