おどけた口調で話す彼を、私は悲しい気持ちを抱えながら見つめていた。
 言わなきゃ。ちゃんと、今ここで。

「いえ。あなたと食事には行きません」

 笑顔だった晃さんの表情がサッと硬くなった。

「予定があるの? じゃあまた今度にでも……」
「もう二度と、私を誘わないでください。私は晃さんとは、二度とご一緒しません」

 これまで姉目当てで私を誘ってくる男たちに向かって、何度も同じセリフを言ってきた。
 あまりに言い慣れ過ぎて、まるで暗記した九九みたいにスラスラ言える言葉だった。
 なのにこんなにも、言い辛いなんて。

「聡美さん、やっぱりまだ怒ってるんだね」
「いいえ。怒ってなんかいません。そうじゃないんです」
「じゃあ、なんで?」

 答えようとしたけど、言葉が見つからなかった。
 話せるわけがない。言えるわけがない。
 ただ私は、これだけは伝えたいと思う言葉を必死の思いで口にした。

「晃さん、今までありがとうございました。とても楽しかったです。こちらこそ申し訳ありませ……」
「納得できない」

 私の必死の言葉は、晃さんの硬い顔と声によって遮られてしまった。

「納得できないから、ちゃんとわかるように説明してくれよ」
「無理なんです」
「無理でも説明してくれ。聞くから」
「だから、説明するのが無理なんです。どうかこのまま納得してください」
「だから、納得できないって言ったろ? 好きな女にそんなセリフ言われて黙って引っ込む男がどこにいる?」