『過ぎたるは猶、及ばざるが如し』っていうけど、まさにそれだと思う。
 神レベルで美し過ぎる女性って、どこか現世では適応しきれない。
 変な言い方だけど、世間からズレ出てしまう部分があるんだ。本人にはまったく責任ないのに。

「心配だわ。最近の若い男の子って暴走しやすいから」
「うん……。でも大丈夫だよ。お姉ちゃんも対処には慣れてるから」

 日を追って輝きを増す美しい娘。
 物騒な世の中だし、親にしてみれば心配で仕方ないから、平凡な次女に目が向かなくなってしまうのも当然かもしれない。
 私の恋愛トラブルなんて、お姉ちゃんの心身の危険に関わるようなトラブルに比べたら、気にする余地もないだろう。
 自分のことくらい、自分でなんとかしなきゃな。

「行ってきます」

 職場に向かい、定刻通りに到着して、皆に挨拶しながら店内の掃除を始める。
 いつも通りに決められた業務をこなして、いつも通りに講習の時間が始まってしまった。
 でも私の心はいつもと全然違って、ひどく沈んで落ち着かない。

 晃さんに会いたくない。
 会議室の席に着きながら、逃げ出したい気持ちで一杯だ。
 エスケープできる正当な理由がないか懸命に頭を廻らせたけれど、そんな理由なんてあるはずもない。
 そして無情にドアがカチャリと開く音がして、私の心臓が痛みを伴う嫌な音をたてた。

「おはようございます。聡美さん、詩織さん」
「おはようございまーす! 晃さん!」
「おはようございます……」

 私は深く頭を下げ、ぼそぼそと小声で挨拶する。
 そのまま視線を下におろして、晃さんの顔を見ないようにした。