天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

「あの、ちょっと失礼します」

 そう言って逃げるようにお手洗いへ向かった。
 鏡と向かい合い、自分の顔を真正面から眺めると、テカッたオデコにテカッた鼻の頭が私の心を圧迫する。
 毛穴も開いてきてるし、酷い有り様としか言えない。

 でも、これはもうそのことだけが問題ではない。
 これは私の内面の……ううん。今まで鉄仮面に依存せざるをえなかった、悲惨な人生の問題なんだ。
 やっと転機が訪れたのに、何よりもその鉄仮面が邪魔をしているなんて、いったいどんな皮肉なんだろう。

 答えのない迷路に迷い込んだような気持ちのまま、簡単なメイク直しを施してお手洗いを出た。
 メイクを直した直後だから、さっきより少しだけ平穏な心で晃さんの顔を正面から見ることができる。
 私はずっとこのまま、鉄仮面を被ったままで彼と向き合い、メイク崩れにビクビク怯えながら、彼と会い続けるんだろうか?

 そんな迷路の出口は見えないまま、しばらくふたりでグラスを傾ければ、時間は穏やかに過ぎていく。
 晃さんが門限を気にしてくれて、そろそろお開きの時間になった。
 まるで私の心のような、切ないジャズのメロディーを背にして店を出る。
 頭は忙しく働いてハッキリしていても、体は酔いに正直で、足元が少しフワフワした。

「ちょっと歩こう。酔い覚ましに」

 晃さんがそう誘ってくれたから、戸惑いながらも頷く。
 そしてふたりで肩を並べて深夜の街を歩いた。