天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 晃さんの穏やかなその声に、真剣な色が混じる。
 私は思わずメイク崩れのことも忘れて、晃さんの顔を真正面から見た。

「せっかくこんなに綺麗で素敵なものが目の前にあるんだから、俺も手を伸ばしてみたいよ」

 そう言って晃さんはストローに口をつけ、カクテルを吸った。
 そして「んー、やっぱり観賞用かな? でもこれ、気分いいな!」と言って笑った。
 私は、彼のそんな笑顔を複雑な思いで見つめる。

 せっかくそこにあるのに。
 こんなに近くに、手の届くところにちゃんとあるのに。
 私は鉄仮面を被りながら、それを眺めているだけだ。
 それがどんなに勿体ない、残念なことなのか。自分でも良く分かっている。
 今までノドから手が出るほどに欲していたものが、目の前にあるのに。

 でも再び、私は自分の顔を晃さんから逸らした。
 勇気を出して、一歩だけ進んでみたけれど、進んだ先に予想通りの高い壁があって、それを前にして呆けたように見上げている。

 こんなの、簡単に飛び越えられるわけがないじゃないの。
 どれだけ年季の入ったコンプレックスだと思ってる?
 こんな顔を、こんな自分を彼に見せたくない。隠し通したい。
 ほら、やっぱり無理だ。嫌われたくないの。怖いのよ……。

「宝石を縦に並べたみたいなカクテルだろ? これ、聡美さんに見せたかったんだ」

 明るく穏やかな声の主は、どこまでも優しい。
 それに手を伸ばしたいのに伸ばせない、臆病な自分。